京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫
*この記事は、天狼院ライティング・ゼミで「読まれる文章のコツ」を学んだスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
京都スタッフ三宅です。
あの、書店スタッフとしてこんなこと言うのもどうかと思うんですけど、
ぶっちゃけ、本読むのってめんどくさくないですか??
借りるのでない限り、ネットやテレビみたいに無料じゃないし。
眠たい時に読んでると寝ちゃうし。
肩こりも酷くなるし。(これは私だけ?)
だけど、読む。読んじゃうんですよね。
私は、本を読むのがめんどくさいけど大好きです。
なんでかというと、今まで本に、たくさん励まされてたくさん教えられてきたから。生きててよかったって思うくらい、死ぬほど面白い本に出会ってきたから。
読むことで人生をつくってきたんだと思うから。
そこで、今回は、これを読んだらあなたの人生を狂わせてしまうかもしれない……! と思うほど、衝撃的で面白い本を選んでみました。
あなたに、一冊でも多くの、素敵な本との出会いがありますように。
*
1 オリガ・モリソヴナの反語法(米原万里、集英社文庫)
ロシア通訳者として有名な著者が描いた、ソ連の裏側で強く明るく逞しく生きた人たちの物語。
私が全人類におすすめする本を挙げるとしたら、この本を挙げる。世界の物語を「歴史」と呼ぶとしたら、「文学」の役割は、歴史からこぼれ落ちるたくさんの個々の声に、寄り添い拾い上げ物語にすることだと思う。
歴史や世界を雑に見たくない。だってそこには一人一人違う誰かがいる。
2初心者のための「文学」(大塚英志、角川書店)
私たちは小さい頃から読書を推奨されている割に、「本の読み方」はちっとも教えてもらっていない。別にどんなふうに読んだって勝手なのだが、たとえば野球観戦はルールや選手の名前を知ってからのほうが面白いのと同じように、「こういう読み方がある」と知るだけで読書の面白さは変わる。普通に読書好きだった私が「こんな読み方ができるのか」と衝撃を受けて、大学で文学を勉強するに至ったきっかけの一冊。
3アウトサイダー(コリン・ウィルソン、集英社文庫)
「私たちはなぜ日常を退屈で面白くないと思ってしまうんだろう?」そんな疑問を、古今東西の文学を引っ張り出しながら、哲学的かつジャーナリスティックに考察した本。
死ぬほど面白くて衝撃的な「知」ほど幸せなものはない。文学評論なんて退屈で意味がない、そう思ってる人にこそ読んでほしい。とりあえず死ぬほど面白い。
日常生活に埋もれて窒息しそうになる時に読むと、本気で人生が変わると思う。
4スティル・ライフ(池澤夏樹、中公文庫)
自分が世界の中心じゃないこととの付き合い方を知る、日常と非日常のあわいを描いた中編。
日本語でこれ以上透明感のある文章を、私は見たことがない。とくに冒頭。日本文学史に残る名文だと思っている。自然と触れ合う機会が少ない都会の人にこそ読んでほしい、「文章で自然と出会うことのできる」物語。
5人間の大地(サン・テグジュペリ、光文社古典新訳文庫)
『星の王子さま』で有名な著者が、自身の飛行経験や遭難経験を綴った自伝的な一冊。私は『星の王子さま』もかなり好きだけど、読んだ時の衝撃度合いはこちらが勝つ。
飛行機が墜落して砂漠で死にかけた時の経験や、そこから得た著者の哲学も素晴らしいが、やっぱりこの本で一番美しいのはその「空」の描写。
新潮文庫版の解説は宮崎駿なのだが、「どうしても空に取り憑かれてしまう男」というのがこの世にはいるらしい。命よりも大事な何かに取り憑かれてしまった人の生み出すものは、美しく、切ない。
6グレート・ギャッツビ― (村上春樹翻訳ライブラリー)(スコット・フィッツジェラルド、中央公論新社)
これまた命よりも大事に思ってしまったものに取り憑かれた男の物語。訳はなんだかんだ村上訳が一番好きだ。「でもまだ大丈夫。明日はもっと速く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。……そうすればある晴れた朝に――」最後の文章は世界文学史に残る切なさだと思う。この本を読むといつも男はバカだと思うのだが、やっぱり最後は泣けてしまう。
7愛という病(中村うさぎ、新潮文庫)
女は女で大変だ。モテとか美容とかいつまでたっても。そんな女の問題にいつも正面から取り組む著者が、「人間にとっての愛って何?」を考えた一冊。頭でっかちに考えたのではない、整形やデリヘル体験やホスト貢ぎから得た考察は深くて強くて繊細だ。なぜ恋をすると盲目になるのか、女の自意識とは何か、エロいってどういうことなのか、少しでも興味のある人はきっと衝撃を受けるので読んでほしい。
8高慢と偏見(上)(下)(ジェーン・オースティン、ちくま文庫)
まぁ結局、男もバカだが女もバカだ。だけどバカだからこそ愛せるし面白いのだ、人間は。
「いるいるこういう人!」と笑いながらも、その人間観察眼にひやりとさせられる、19世紀イギリスの貴族社会を舞台にしたラブコメの名作。
「古典だろうと外国だろうと、人が恋だの結婚だのに振り回される事実は、少しも変わってないんだな」と本当に驚かされる。ちなみに訳はちくま文庫のが大好きだ。
9コミュニケーション不全症候群(中島梓、ちくま文庫)
じゃあ現代日本特有の問題はあるのかってーとやっぱりあるんだな、これが。
「ダイエット」「腐女子」「オタク」彼ら彼女らはどうしてそうなってしまうのか? 現代とはどういう時代なのか? 「まともであるほうがおかしい」社会の少年少女を、「グイン・サーガ」等の著作で知られる栗本薫が中島梓名義で考察した本。
自分には関係ないと思ってたら、途中から鳥肌が立ち、最後は涙を流してしまうほどの衝撃を受けた。優等生であること、社会に過剰適応してしまうこと、承認欲求や自己愛が生み出す魔力を自覚してないこと。気付くことから、その治療は始まるのだと思う。
10ものぐさ精神分析(岸田秀、中公文庫)
『コミュニケーション不完全症候群』と一緒に読んで、本気で世界がひっくり返ったように見えた本。「今の自分が嫌いだから変えたい」「夢を持ちたい」そんな風に思ってる人に、「自己嫌悪の効用」を読んでほしいと言ったら意地悪だろうか。
これを読めば、ディズニーも司馬遼太郎も信じられなくなる。日本とか自分に対して抱いていた幻想が何だったのかと思うようになる。だけどその代わり、確かに新しい世界が手に入る。だから読書って面白い。
11堕落論(坂口安吾、新潮文庫)
受験生の時に読んで、「やばい、今これ読んだらあかんやつだ」と思って震えた一冊。いまだに読んでて興奮する。世間の善悪はいつでも入れ替わる。だから自分の頭で考えるべきだ。
堕落すること、本質を見つめること。ぬるま湯につかって生きるのは楽だけど、そんなん生きてるって言わない。中途半端な理想を語るんじゃないばかっ、と読むといつも自分を叩きたくなってしまう。
12枠組み外しの旅―― 「個性化」が変える福祉社会 (叢書 魂の脱植民地化 2)(竹端寛、青灯社)
一見社会福祉の学術書なのだが、その実は「どうやったら人は変わるのか」という問題と真摯に向き合っている著者の本。
「どうせ変わりっこない」と思うその枠を、どうやって人は超えてゆくのか。ダイエットや花粉症といった著者の体験談から始まる分かりやすい文章は、組織や制度や社会に縛られている思考を、くるりと回転させてくれる。学術書でこんなこと可能なのかと驚かされ、学問の強さを教えてくれた一冊だ。
13眠れる美女(川端康成、新潮文庫)
うって変わってこちらは変なフェティシズムに狂わせてしまうかもしれない! と思う本。川端康成はとにかく美少女を描かせたら日本一の作家だと思う。ひたすら老人が美少女の寝顔を見つめるだけの話なのだが、もう、その寝顔の美しさやエロさったらない。そして対比される老人たちの哀愁と醜さ。絶品以外の何物でもない。
変態といえば谷崎や三島と言われるが、私からすると川端のほうがよっぽど変態だと思う。
14燃えよ剣(上)(下)(司馬遼太郎、新潮文庫)
川端が眠る美少女を描いたのだとしたら、司馬遼太郎は燃える青年を描いた。司馬は戦う青年にフェティシズムを持っていたのだと思う。この上なくかっこよく、切ない土方歳三という男の物語。ラストシーンは美しすぎていつも泣いてしまう。人間は、結果ではなくその生き様がすべてを語るのだと思わされる物語。
志のためにどこまでも駆けてゆく青年の姿に、きっと、あなたも魅了されずにはいられない。
15図書館戦争(有川浩、角川書店)
エンタメとしての面白さと物語としての強度をここまで両立させた物語は、なかなかない。
ラノベ調の読みやすい文章と、「ベタ甘」と評される少女漫画のような恋愛部分で読者を引き込みながら、語っているのは「組織としての正義」と「それとの矛盾に葛藤しながら戦う」主人公の成長だ。
私は中高時代に有川浩からたくさんのことを教えてもらったのだけど、一番は「日和ったツケはいつか必ずやってくるから、臆すな」ということだったと思う。読むたびに励まされ、勇気づけられ、背筋の伸びる最高のエンタメ小説。
16春にして君を離れ(アガサ・クリスティー、ハヤカワ文庫)
人は死なない探偵もいない事件だって起こらない、だけど、アガサクリスティ作品の中で一番好きな小説。
誰だって自分の人生を正しくて幸せだと思いたい。愛情と誇りに満ちた人生を送っていたい。だけど一方で、私たちはいつだって誰かの正しさに傷ついてしまうのだ。
主人公の主婦を、自分と違う人間だと思うのは簡単だ。だけど、きっと同じように自分も誰かをどこかで傷つけている。人間は哀しい。最後まで油断せずに読んでほしい、なぜなら静かな衝撃を受けるラストこそが、この作品の本当の肝だから。
17氷点(上)(下)(三浦綾子、角川文庫)
私はほとんどキリスト教がなんたるか分かっていない。だから原罪の概念もよく分かっていない。だけどこの小説を読むと、たしかに衝撃を受ける。「汝の敵を愛せ」という有名なキリストの教えが、胸にしみわたってくる。
「犯人を一生憎まずに生きるかどうか」というよくあるテーマを、ここまで掘り下げた作品を私はほかに知らない。愛とはゆるすこと。私は本当に実践できるのか分からない。
18存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ、集英社文庫)
結局、誰でもいいんじゃないか? 恋愛でも組織でも国でも、ここにいるのは、交換可能な誰でもいいやつなんじゃないか?
そう思ったことのある人にはぜひ読んでほしい。「プラハの春」の時代のチェコを舞台に、政治と恋愛に揺れ動く三人の男女の物語。
かけがえのない誰かになることは、実は、重くて苦しい。実は人間はめちゃくちゃ飽きっぽい。それを知ってる人が読むと、衝撃を受けながらも面白いと思うだろう。
19こころ(夏目漱石、新潮文庫)
日本文学史の中で一番人を狂わせる物語、というと、私はやっぱりこれを選んでしまう。読むたびに違う部分に衝撃を受ける一冊なので、読んだことのある人も読み返してほしいと思う。
誰かを傷つけてでも押し通してしまう自分のエゴと、それを割り切れない矛盾の葛藤。そしてそこから生まれるどうしようもない、ひんやりとした孤独。孤独なくせにそのエゴを持ってしまう自分に、『こころ』を読むと気づいてしまうのだ。
結局、人は孤独に気づくから本を読むんだと思う。誰かと何かを共有したくて。
20わたしを離さないで(カズオ・イシグロ、ハヤカワ文庫)
あー最後までやってきた。やれやれ。今まで読んできた本の中で、ていうか世の中で出版されている本の中で一番の傑作だと私が信じて疑わない小説だ。
クローン問題だとかそんな設定よりも、主人公たちの静かな語り口に隠された、狂おしいほどの感情の波に耳を傾けてほしい。そしてラストシーンの静かな景色を見守ってほしい。
なつかしさと、切なさ。物語とは結局どこかの記憶をなぞることなのかな、と私は思う。
*
長くてすみません(笑) ここまで読んでくださってありがとうございます。
実際リストを作ってみると、やっぱり「読んだ後、明確に自分の見てる世界が変わった本」のリストになったなぁ、と思います。
「狂う」って、「世界の規範から外れる」ことだと思うのですが、どうしても社会や世界に流されることのできなくなる本たちを選んでみました。
リストに収めきれず、もっと影響受けた本は別にあるのですが、それはまた別の機会に。
現在22歳の小娘である私がつくったリストですが、これから先、たとえば44歳になってどういうリストになるのかなぁ、と今から楽しみでなりませんね。
これだから本を読むのはやめられないのでしょう。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
あなたにも、素敵な本との出会いがあることを願ってやみません。
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